震えるきみの手を強く握りしめて、バスがくるのを待っている。
さっきからきみは俯いたままで、僕は時計を見てばかり。
どちらとも何も言わないまま、2分、5分、10分と
どんどん時間は過ぎてって、最終のバスがもうすぐやってくる。
冬の夜は真っ暗で、街灯の光はとても頼りないぼやけた明かりで
僕らの足元を照らしている。
しんと身にしみるような寒さと沈黙に耐えられなくなってきた。
頭の中、思いついた歌をかたっぱしから口ずさむ。
タッタッタ タラッタラッタッタッ・・・
歌詞がよくわからなくって、どれもまともに歌えない。
僕の音痴な鼻歌を聴いたからか、隣できみが少しだけ
笑ったような気がした。気のせいかな。

バスはどうやら遅れているようで、予定の時間を大分過ぎている。
別にそれは大した問題じゃない。
僕らにはこれから時間も、もっと大きな問題もたくさんあるのだ。
そう、今夜僕らはこの街を、出る。
どちらからそういう話をし始めたのかは覚えていないし、
この街を出てどうするのかも決めていないけれど、
まあどうにかなるさ。・・・どうにかなるのか?
とても情けないことに今更不安になってきて、
全財産を詰め込んだ財布を、ポケットの中できつく握った。
そうやってぼうっとしている間に、
いつの間にかきみの手は僕の手から離れてしまっていて
だらしなく開いた僕の指の間を、冬の風が通り抜けていた。

「ねえ、」
「うん?」
「やっぱり帰ろうって言ったら、怒る、よね。」

その言葉を聞いて、なぜだか僕は安堵した。
僕はもう一度、離れた君の手をきゅっと握りしめる。
冷えきった互いの指先を、今度は離れないようにしっかり繋いだ。

「いいよ、もう、いいよ。」

帰ろう。
あのつまらない街、決して広くない部屋に。
目の前にやっとやってきたバスを無視して、
帰り道を辿って歩き出す。
寒さのせいで上手く笑えないけど、怒ってなんかいないよ。
だからどうか、そんな泣きそうな顔をしないでよ。
そう言おうと思って振り向いたら、きみはもうすでに
ぼろぼろ涙をこぼしていた。
ああ、どうしてきみの涙は、
どんな演技上手の女優のそれよりも胸をしめつけられるんだろう。
黙っているとなんだか僕も泣きそうになるから、
涙をこらえて星空を見上げ、わざと大きな声で歌を歌う。

「パッパッパ パラッパラッパッパッ・・・」

ぐすぐすと鼻をすすって、ごめんねばかりを呟くきみと、
大声で音っぱずれな歌を歌っている僕。
ねえ、笑ってよ。どうか。
夜空で輝く、たくさん、たくさんの星が
情けなくて格好悪い僕らのことをじっと見つめていた。




















































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