冬の冷たい風を顔面に受けて、思わず僕は瞼を閉じる。
口から出ていく自分の息がやたら温かいように感じて
そっと目を開けると、吐き出した二酸化炭素が
真っ白になって空に上っていた。
白い息が大気中に溶けてゆくのを目で追っていると、
張り巡らされた真っ黒な電線が、冬の青空を
絡めとっているのが目に入る。
そういえばきみは、電柱と空の組み合わせって素敵よねって
この間僕に話してくれたっけ。その時僕はどんな反応を返したっけ。
この間、というより、ほんの2、3日前のことなのに覚えていない。
溜息代わりの白い息を、もう一度空に向かって吐き出して
ゆるんだ靴紐を結びなおして歩き出す。

短いスカートひらひら揺れる、
その下から、見たくもないのに見える太い足。
歩きながら電話をして、ついでにメモもとっている器用な女性。
たくさんの苦しみを積んだように背中が曲がった男性。
みんなみんな、なにがそんなに忙しいのか早足で通り過ぎていく。
それに比べて僕なんか、路地裏を見つけては覗いたり
ときどき鼻歌を歌ったりしながらマイペースに進んでいく。
とりあえず約束の時間につけばいいんだし、
なんて頭の中で独り言を言いながら。
きっと彼らと僕とでは、時間の流れ方が違うのだ。

待ち合わせ場所について携帯をチェックすると、新着メールが一件。
Title:「近くににいるよ」
だって。
タイトルのとこで用件告げちゃってどうすんのさ。
ていうか近くってどこなんだよ。もうちょっと具体的に伝えてよ。
思わず緩んでしまった口元はそのままで、
とりあえずぐるりと辺りを見回す。
灰色のビルに設置された大きなスクリーンから、
最近よく見る女優がにっこり、僕に微笑んでいる。
化粧品を片手にもって微笑むその顔は、
まるで白磁の器みたいに真っ白できれいだ。
でも、どんなに美人な女優よりも、
今視界の隅に発見したきみのほうが僕の好みなんだよなあ。
なんて、ね。

「本当に近くにいたんだね。待った?」

「うん、ちょっとだけ待ったよ。」

まだまだ寒い、日曜の午後。
真っ白な息も、今度は二人分で青空に浮かんでいる。
冷えきったその手をそっと握って、僕らは二人同時に歩き出した。
さて、これからどこに行こうか?



多分が居れば世界は廻る




























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