煙草の煙が揺れる空。
二酸化炭素と混ざり合うニコチンが、空気を濁す。
ごちゃごちゃした悩み事や考え事を、薄い膜で包んで
見ないように、考えないように心がける。
何も変わらないまま、また日が暮れて夜がきて朝がくる。
進歩しない猿はただの猿だ。全くその通りだ。
じゃあ俺は、一体いつから猿のままだ?
もうそろそろ、二足歩行をするのも面倒くさくなってきたよ。
つけっぱなしの携帯音楽プレーヤー。
聴きっぱなしのアルバムは三度目の繰り返しへと突入する。
音楽を聴きたいのか、耳を塞ぎたいのか、
一体どちらが目的だったか、今ではもうわからない。
この曲のタイトルさえ、わからない。
たしかこれは、あいつが好きなアーティストで、
あの時はろくに聴きもせず、「俺もこの曲好きだな、」なんて言ってたな。
目を閉じて、今度はちゃんと、耳を澄ます。
透き通った声が、頭の中でしんと響いた。
ゆっくり目を開けると、曲にピッタリの景色が瞳に映る。
夜へと近づく空の色、ちらほら灯りだす頼りない電灯の光。
子供の声、どこからか聞こえてくる音痴な童謡。
隣の家の晩御飯は、匂いから察するにカレーらしい。
「ああ、」
頭の隅でうずくまっているつまらない物思いに蹴りを入れて、
大きく深呼吸をする。何度も、何度も。
そうだ、呼吸はこんな風にするんだったな。
少し背筋を伸ばすと、背骨がばきばきと音を立てて鳴った。
吸いかけの煙草を、コーヒーの空き缶にねじこんで立ち上がる。
俺も今日はなんだか、カレーが食べたい気分だ。
久しぶりに外へ出よう。晩御飯の材料を買いに行こう。
音楽プレーヤーはつけたままで。
なんだ、世界を変えるなんて、案外簡単なことだったんだ。
俺の世界を変える、その音楽