差していた傘をゆっくり下ろして、
雨の上がった空を見上げた。
灰色の重たい雲から幾筋かの光が差しこんで
まだ雨の匂いが残る街を、優しい光で照らしている。
隣で歩く君を見やると、傘を控えめに何度か揺らし、
水滴をきらきら飛ばしていた。

「雨も好きだけど、雨上がりも好きだなあ。」

そういって空を見上げて、大きな目を眩しそうに細めている。
優しい光が、きみのそんな表情を柔らかく包んでいて
思わず僕もその景色を見て目を細めた。
どうかした?って僕の顔を覗き込んで、きみがそう訊くから
なんだか恥ずかしくなって、なんでもないよと目線をそらした。
雨上がりの街の、まだ少し湿った空気を肺いっぱいに吸い込んでみる。
去っていった雨と、やってくる夏の香りがした。

少しそのままぼおっと歩いていると、少し先のほうから
ぱしゃりと水を蹴り上げる音がした。
顔を上げてみると、ピンクのかわいい靴で水溜りを蹴っている君が目に入った。
確かそれは新しく買った靴だったんじゃなかったっけ?
という言葉を言うべきかどうか迷ったけれど、なんだか可愛かったから
結局言わないことにした。
のんびりだらだら歩く僕を、少し拗ねたような顔で見ている。
彼女、っていうより可愛い子供を見ているような気分だ。
そんなことを考えると、頬がゆるゆると緩む。

きみに会ってから、僕の中でいろんなものが変わっていった。
書店で詩集を手に取ることなんて今までなかったのに、
最近の僕の本棚には、あらゆる詩人の詩集がいつの間にか揃っている。
紅茶の種類って訊かれたら「リプトン」なんて答えてたけれど、
今ではダージリンやカモミールといった茶葉の缶がキッチンに並んでいる。
そしてなにより、雨が好きになった。
君と歩く雨の街が、君と同じくらい好きになった。

「ねえ見てみて、虹っ!」

だんだん雲が晴れきた空、灰色の隙間から見える青空に
大きな虹が、灰色のビルからのびるように空に描かれている。
それを指差して笑う君と景色が溶け合って、ひとつの絵みたいに見える。
なんてありきたりな表現だろうと苦笑しながら、
手をぶんぶんと振って笑っている君のもとに、小走りで駆けていく。



きみと会えて、
(恥ずかしいから、最後まで言わないよ!)




























inserted by FC2 system