テスト明け、放課後のグラウンド。
様々な声が飛び交っては、夕焼け色の空気の中に溶けていく。
いつもよりずっと活気に満ち溢れているようで、部員の人たちは
鈍ってしまった体を元に戻そうと頑張っている。
サッカー部のエースこと上山君、彼女がころころ変わることで有名な東野君、
それから、陸上部の実夏ちゃんはその細い足と白い肌で人気だ。
どの人も、部活のジャージがよく似合う。

何かに一生懸命になれる人ってうらやましいな。
放課後の教室で一人居残りさせられ、数学のプリントをにらみつけている
あたしとは大違いだ。この問題も、この問題も、むしろどの問題も解からない。
2本の線が三角形に突き刺さって、ここの角がこうなって、それで何を求めろって?
平行四辺形の面積さえ求められない私に、こんな問題を解けっていうのか。
腕組みしても、頭をひねっても、気分転換に体操してみても状況は変わらなかった。
仕方ないからこうやって、窓から放課後の部活風景を眺めている次第である。

「なんで高校に入ったんだ、って言われてもなあ。」

働いてる友達は、元気かな。
朝から昼は近所の某ハンバーガーチェーンで働いて、
夜はこの高校の定時制に通っているホシノ君。
いつもにこにこ笑ってて、掃除の時間だって一人だけいつも真面目にしてた。
体育で怪我したときに、保健室で丁寧に消毒してくれたこともあったっけ。
情報通の友達の噂では、お母さんがまた病気で入院しているらしい。
きっと彼のことだから、それでもいつもの笑顔を絶やさないんだろう。
今度の日曜日には、久しぶりに友達とハンバーガーを食べに行こうかな。
その前にこのプリントを仕上げないと、きっと休日にも呼び出されるんだろうな。

そろそろ、頬杖をしている手が痛くなってきた。
太陽はもう半分ほど山の中に隠れていて、空は赤から青っぽい黒に色を変えていく。
真っ白なままのプリントと落書きで汚れた机が、夕焼けの名残のような色に照らされ
て、どこか寂しそうだ。
あたしは一体ここで、何をしてるんだろう。
得意なことはって訊かれても答えられなくて、勉強だって普通かそれ以下。
運動はそこそこできるけど、休日にも大会なんかがある部活はしたくない。
そうやって一年が過ぎて、気づいたら二年生になってしまった。
同じようにまた一年が過ぎて、気づいたら三年生になっているんだろうか。
こんなんでいいんだろうかって、何度か自問自答したけれど
いつだって中途半端に悩んで、答えは出ないまま。

グラウンドのあちこちで、部活動が片付けを始めている。
上山君も、東山君も、実夏ちゃんも、みんな清清しい顔をしているように見える。
ホシノ君は定時制だから、今ごろは二時間目くらいかな。
彼らの気持ちは、あたしには分からない。
勉強もできて、部活にも真剣に取り組んで、弱音を吐かずに頑張れるっていうこと
働きながら学校にも行って、母さんの看病もして、それでもまだ笑ってられるっていうこと
きっとこれからもずっと、分からないままなんだろう。
真っ白なプリント、その白さの隅に殴り書きで一言。

























inserted by FC2 system