古典の授業はとても退屈で、いつも欠伸をかみ殺している。
ひどい時は眠りに落ちてしまうのだけれど、
担当教師に目を付けられてしまってはたまらない。
成績の悪い子ばかりが、さっきから何度も質問に当てられている。
進学校というくせに、大学への合格者は50人にも満たない。
そのくせ、毎日課外やら課題やらがたっぷりと出される。
この学校で本当に良かったのか、なんて考えたりはしないけれど
時々心にぽっかり穴が開いたような気になってしまう。

(考えてもどうにもならないんだから、考えるだけ無駄だ)

なんとなく、窓の外を眺める。
青い空を旋回していく午後の風が、
芽吹いたばかりの葉を木からもぎとっていく。
温かい光が黒板に反射して、書かれた文字がよく見えない。
隣の席の子はシャーペンを手にしたまま、うつらうつらと
頭を上下に揺らしている。
そんなんだから、テストの成績が悪くなるんじゃないの。
さっきから先生の視線を感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
いい加減起きればいいのに。
ちらりと横目で盗み見ると、そのノートには文字ではなく無数の落書きがあった。
窓枠とその外の景色、誰かの横顔、桜の花。
彼の頭が影になっていてよく見えないけれど、
その絵はどれも、とても緻密で上手だった。

そういえばこの人は、美術を選択していたはずだ。
一度だけ、隣の席になったことがあった。
自分の心情を描くという課題で、暗い色ばかり使う私に対し
明るくて華やかな色を使って、とても楽しそうに絵を描いていた。
確かその絵は、教室の後ろに貼りだされていたはずだ。
部活も美術部だったっけ。
彼の描く絵をもう一度見てみたいな、なんて、ふと思った。
彼にとって、絵を描くことはきっと勉強より大事なんだろう。
広い世界に出れば、彼以上に絵の上手い人はたくさんいる。
だけど、彼の絵は彼にしか描けないのだ。
全て型通りにしかできない私は、そんな彼を羨んでいる。
ぽっかり穴が開いてしまう心は、「私にしかできないこと」を
望んでいるのかもしれない。

午後の太陽は優しく、寝ている彼の黒髪に光を投げかけている。
その景色は、まるで一枚の絵みたいだ。
なんでもいいから、この一瞬の景色を保存してほしい。
ねえ、どうか先生、今だけは彼を起こさないで。





      (いつか見つかるだろうか、“only me”)





























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