君のこと、

言おうとして、止めた。
言ってはいけないような気がした。
青い、青い空。
濃厚なミルクのような雲が、
僕たちの頭上をゆっくり流れていく。

何か言わなければ、とは思うのだけれど
ぐるぐる廻る気持ちは、上手く言葉にならなくて
拳を握り締めることしかできない。
鼻の奥が、つんとした。

君が行くというその場所のことを、僕はよく知らない。
知ったところで、どうなるというんだろう。
君を引き止める力を、僕は持ち合わせていないし
君の強さは知ってるから、引きとめようとも思わない。
名前も知らない木の葉っぱが、ざわざわ揺れている。
風は、君の背中を押すように、強く吹いている。
ばっさりと切られた君の黒髪を、どこからか飛んできた
赤い花びらがかすめていった。

いつか君と指きりをした小指が、じんと痛んだような気がした。
約束の内容は、もうすっかり忘れてしまったけれど
僕たちの間には、そういえばたくさんの約束があったよね。
捨てていって、いいよ。
繋いだ小指は、離していっていいよ。
僕が君に言えるのは、それだけ。


「頑張りすぎちゃ、だめだよ。」


前だけを見て歩いていく君の表情は見えない。
だけど、ほほえんでいるような、そんな気がした。



青い空には、
自由に飛ぶ鳥が
よく似合う。










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