君は待ち合わせの時間に、もう二時間も遅れている。
机の上の携帯をさっきから凝視しているのだけれど
着信音はいつまで経っても鳴らないようだ。

君と一緒にコーヒーを飲んでいたときは、
とても静かだと思っていたこのカフェ。
今日は色んな音が、とてもよく聴こえる。
ああこんなクラシックが流れていたのか、とか
そういえばあの爺さんはよく来てるよな、とか
今までそんなこと、気にもしなかった。
目の前の君を見て、話を合わせるので精一杯だった。

振り返ってみれば俺は、君に対してやけに強気だったなあ。
なあ、そんな俺に嫌気が差したのかい?
問いかけたくとも、君は今ここにはいない。
俺は何をしているんだろう。
新しい出会いを求めて通りを歩くほうが、よっぽど生産的なのに
頭では分かっているのに、席から立てない。

このまま君がこなくとも、俺と君の人生は
それぞれ何事も無かったかのように、続いていってしまうんだ。
出会いも別れもいつか、「思い出」というゴミ箱に投げ捨てられ
俺は別の誰かとキスをし、
君もまた、別の誰かと手を繋いで歩くだろう。
そうやって続いていく人生に、誰も疑問を抱かない。
それが寂しいわけじゃない。
そうじゃない、そうじゃないが、
なんだか胃のほうがキリキリ痛むんだ。
いや、痛んでいるのは心臓か?

運ばれてきてから、一度も口をつけていないコーヒー。
白いカップに、そっと手を触れる。
じんわりと指先に伝わる、冷たさ。
頼みもしないのに添えつけられたミルクと砂糖を入れて、
ただじっと、混ざり合わない黒と白のマーブル模様を
眺めていた。



でも僕等そうやって

生きて行くんでしょう


















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