『むかしむかしの話です。』


埃をかぶった童話の絵本は、そんな始まり方をしていた。
本棚の奥から見つかったその絵本には、
小さい頃のわたしのクレヨンの落書きが、残っている。
そうそう、これはこんな話だったなあ。
きれいなドレス(今見るとかなりセンスが悪い)を着たお姫様。
白いタイツ(思わず笑った)と、きらきら光る王冠が印象的な王子様。
そして最後のページは、必ず同じ言葉で終わる。
「ふたりは、すえながくしあわせにくらしました。」
挿絵は、結婚式のドレスに着替えて微笑んでいるお姫様だった。

悪者はみんな死んでしまうか、どこかに追放されてしまう。
大して悪いことをしてない奴でも、死んでしまったりする。
今思えば、なんて可哀想なんだろうか。
赤頭巾のオオカミは、お腹を切り裂かれて死んでしまう。
さるかに合戦の猿は、臼につぶされて死んでしまう。
鬼が島の鬼たちは、桃太郎たちにやっつけられた上に宝物を奪われる。
そうして平和が訪れる。
誰かの死や、悲しみの上に。

なにも殺すこたぁないんじゃないか。
なんて、ちょっと大人になった今では、そう思う。
子供の頃は、何も考えずに幸せな部分だけ読んでいたような気もする。
きらきらしたドレスや、お姫様と王子様の幸せだけを見ていたような。
魔女が死んでも、オオカミが死んでも猿が死んでも、
それでも物語は「すえながくしあわせ」で終わってしまう。
はは、なんて悲しい物語。
絵本の中の悪役たちは、安い同情ならいらないぜ、とでも
言いそうな顔をしている。


そうしていつかはわたしの人生も、
誰かの涙や、苦しみの上に成り立ちながらも
「しあわせ」という言葉だけで終わってしまうのか。





むかしむかしのはなしです。
(埃かぶった絵本を閉じて、また本棚の奥に押し込んだ)



























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