震える君の背中に、触れることさえできない。
手を伸ばしては引っ込めるという動作を、
さっきからもう、何度繰り返しているだろう。
教室はいつの間にか、夕焼け色に染まっていた。
窓の外から差し込む夕日が眩しくて、思わず目を細める。
木の葉が、揺れている。

ざわ、ざわ。
君の嗚咽と、風の音。

しんと静まった教室では、
普段聞こえない音が、よく聞こえる。
剣道部の声、吹奏楽部の下手なフルート。
誰かの話し声、ぺたぺた、歩く音。
でも、どんな音より一番よく聞こえるのは
君の涙が机の上に、ぽたりと落ちる音だった。

動けないままでいる。
軽く握り締めた手のひらは、じっとり汗をかいている。
時計がかちかち、時を刻んでいるけれど
僕と君の時間は随分前から止まったままだ。
泣いている君の背中をじっと見つめて、
それから、役に立たない自分の手に視線を移す。
人を殴ったことのない、
鉛筆をナイフで削ったことのない、
泣いている君の背中を撫でることもできない、手。
ぎゅっと握り締めて、そうして、ゆっくりと開いて
大きく深呼吸をして、
また、手を伸ばしてみる。































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