伝えたいことが、たくさんあったように思う。
行き場のない思いが、さっきからぐるぐる渦巻いて
ああほら、また、溢れてこぼれそうになる。

ああ言えばよかった、とか
こうすればよかった、とか
今となってはもう、どうすることもできないことを
さっきから私の頭は、繰り返し繰り返し考えている。

悲しいことに、君がいなくなっても
空は今日も、とてもきれいで青いんだよ。
鳥もさ、いつもと同じように鳴くんだよ。
君がいなくなっても、世界は特に変わらないんだ。
誰がいなくなっても、世界は特に変わらないんだ。

「・・・けんた、」

日に焼けて、色素が抜けた髪がさ、
夕焼けの光できらきら光るんだ。
大きい手のひらをぶんぶん振って、一緒に帰ろうぜ、って。
背はあたしよりも高くって、大人っぽい見た目してるのに
中身はいつまでたっても、あんまり変わらないまま。
恥ずかしいんだけど!馬鹿じゃないの!なんて言ったら、
すごく落ち込んでたっけね。
大きな背中を、しゅんと縮めてさ。

ごめんね、あれ、嘘だよ。
明日からは、一緒に帰ろう。
今度は、恥ずかしいなんて言わないから。

「健太、」

伝えたいことが、たくさんあった。
たくさん、たくさんあったのに。


「ねえ、」

呼べども呼べども、返事は返ってこない。
そう分かっていても、やっぱり耳を澄ます。
君の声が聞こえてこないか、
君の姿が見えないか。
全神経を集中させて、名前を呼ぶよ。
返事も、君も、二度とかえってこない、のに。




信じたくないんだ、
(夕日はいつもと変わらずとても綺麗なのに)
(あたしの隣に、君がいない)






















inserted by FC2 system