塗装のはがれた、駅のベンチ。
吸い込んだ風は、しっかりと夏の香りを含んでいる。
揺れる電車のせいでじりじりするお尻を気にしながら、
まっすぐ、家への道をたどる。
ぴんと輝く田んぼの稲穂、空に広がる入道雲。
顔見知りのおじちゃんやおばちゃん。
お帰り、と言われるたびに胸の辺りがじんわりする。
ただいま、あたしの故郷!

アパートの窓から見える灰色の景色にも慣れ、
学校の授業にも、今のところはついていけている。
気づけば、家にはもう、随分帰っていなかった。
あたしもだいぶ成長したよね、なんて独り言を言いながら
コンクリートの地面を蹴りながら進む。
蝉の声って、こんなにうるさかったっけ。


「よう帰ってきたなあ。」


蝉の声に混じって、懐かしい声が聞こえた。
ゆっくりと顔を上げる。
夏の日差しがまぶしくて、思わず目を細める。

「おかえり。」

顔を上げた、その先に
大きなヒマワリの隣で、日に焼けた君が笑っていた。
しわくちゃのTシャツとか、
深爪してる手とか、
笑ったときにできるえくぼとか。
ミルクティーをくれたあの時と
ほとんど変わらない君が、そこにいた。

日焼けもしていないのに、顔がほてって熱いよ。
ゆるゆる、ほっぺたが上がっていく。
君に比べたら下手な笑顔だけどさ、
それでも、いいよね?



「さよなら、」だけでは終わらないように。




























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