「なんでだろうね。」

今、こうして校舎内を逃げている間に
あの二人は部室で楽しそうに会話をして、冗談を言い合って、
あたし達のことなんてすっかり忘れているんだ。
そうだよ、きっと、そうだ。

開け放った窓から吹いてくる、湿った風が気持ち悪い。
どんよりと曇った空から、ぽたぽた降りだす雨。
ああ、暗い。


「本当はさ、」

もうあの子が、先輩のことで悩むことはないんだ。
泣くことも、部活を辞めるって言うこともなくなる。
終わりよければ全てよし、っていうじゃないか。
それなのに、なんでだろう。
なんでこんなに、もやもやしてるんだ。

しとしと、ぽたぽた、ぱしゃん。
雨の音が聞こえる。
隣で窓の外をじっと見ている友だちは、
すごく悲しそうな顔をしていた。


「本当は、きっと、」

部活に居場所がないだとか、
あの子とも先輩とも目が合わせられないだとか、
そんなのは全部言い訳に過ぎないんだ。
わかってる。
ちゃんと、わかってるよ。

それ以上は言わないで、というように
友だちが頭を、ゆっくりと横に振る。
お願い、言わせて。
えぐったほうが治る傷だって、きっとあるの。


「あたしも、 先輩のことが好きだったんだ。」


おめでとうって、よかったねって、
素直に言ってあげたいのに。
こんな自分、大嫌いだ。
なんて、最低な奴なんだろう。
うっすらと視界がぼやけていく。

友だちは窓の外を見つめたまま、
あたしは随分前から気付いていたよ、と
寂しそうに、笑った。



気づかずに、いられたならば。
(こんな思いもしなくてすんだだろうか)





















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