波の音が、好きだ。
ざあざざんざざざざん、ざあざあざああん。
寄せては遠のく波の音が、鼓膜をじいんとさせる。
そっと目を閉じて大きく息を吸い込むと、
潮の匂いとどこからか流れてきた煙草の匂いがした。
心地いい。

自分が大嫌いだった。
勉強が嫌いで、成績も全然よくなかった。
でも、自分にもなにか得意なことがあるはずだと思っていた。
そう思わなきゃ、なにかに潰されてしまうような気がしていた。
ああ、あの言葉が頭の中をループする。
ざあざざんざざざざん、ざあざあざああん。
繰り返される波の音。

大好きな歌を、無理やり口ずさむ。
るるる、るら、るるるら、るらら。
囁くような私の声は、潮風とぶつかり掻き消された。
夜空を映した真っ黒の海から、ちゃぷり、魚が跳ねる。
私もあんな風に、跳ねてみたい。
いつもの世界から、一瞬だけでもいい、逃げてみたい。
でも無理だと本当はわかっている。
波の音が、少し耳障りだ。


「この成績じゃあ、駄目ですね。」


頭の中でぐわんぐわん反響する言葉を、
波の音と涙声で口ずさむ歌で必死に打ち消す。
「駄目」の二文字がはっきりと浮かぶ前に。
成績がなんだっていうんだ。
私は、私だ。
・・・きっと、そうなのだ。

ざあざざんざざざざん、ざあざあざああん。
るるる、るら、るるるら、るらら。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system