どうして生まれてきたのか。
灼熱の太陽が肌をじりじりと焦がす。
木陰が、欲しい。
けれど、立ち上がるだけの力もない。
ああ眩暈がする、眩暈が、めまいが。
がりがりにやせほそった だれか が
ほそいほそい腕で、ぼくをだきしめる。
その時だけ、ぼくはほんの少しやすらぎを感じる。
ぽとり、と上から水がこぼれたので
雨かと思って見上げると、それは だれか の涙だった。
なにか食べるものがほしい。
しかし、食べるものを求めて泣く力もない。
ずっとずっとどこまでも続く、ぱさぱさに乾いた大地の上には
枯れた草しか見えなかった。
ずっと向こうには、飢えて死んだ動物の骨が見える。
ぼくもいつかはああなってしまうのか。
ある日目を覚ますと、あの だれか が少し離れた所で死んでいた。
食べ物を探しにいこうとしたんだろうか。
もう、だれもぼくをだきしめてくれない。
ぼくのために涙をこぼしてくれる人もいない。
真っ赤な太陽。
真っ赤な、真っ赤な太陽が
ぼくの上でにやにやと笑っている。
考えることなど、何もなかった。
思うことも、何もなかった。
そういえば、視界が薄暗くなっているような気がする。
なぜか、さむい。
どうして生まれてきたのか。
その理由もわからないまま、
ぼくは、
遠のいていく意識のなかで、
しあわせとはなんだろう、と
そのとき初めて考えた。