沈んでしまいそうだ。

たくさんの人々が歩く、この町。
濁った灰色のビルに、空の鮮やかな青は似合わない。
ある少女はコンクリートの地べたに座る。
ある少年は携帯に目が釘付け。
あるおばさんはやけにきつい香りの香水をつけ、
あるおじさんは多量の二酸化炭素を溜息で吐き出す。
なぜそんなに急ぐのかと問いかけたくなるほど早足の人々が
僕の横を通り過ぎる。

沈んでしまいそうだ。

人混みに紛れていると、いつも息が苦しくなる。
人酔いのせいかもしれないし、劣等感のせいかもしれない。
ふとショーウィンドウに映った自分の顔を見てはっとなる。
猫背の背中、
目の下の青黒い隈、
ただ真っ黒いだけの自分の瞳が、
怖い、と思った。

沈んでしまいそうだ。

電気屋に並んでいるテレビに映っているのは、
またしても殺人事件のニュース。
「誰でもいいから殺したかった」
ニュースキャスターに読み上げられたその台詞は
なんの感情もこめられていないように思えた。


沈んでしまいそう だ。



























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