机の上に置いた携帯が鳴った。
うるさいそれを手に取って画面を見ると、新着メールが一つ。
「学校、なんで来なかったの?」 書かれていたのは、それだけ。
ふっと口の端で笑って、返信をする。
「もうすぐ死ぬんだから、学校なんて行っても意味ない」 書いたのは、それだけ。
送信してすぐ返事が返ってきた。 
心配してくれてる?まさかね、そんなはずない。
「死ぬの?どうして?」 10文字にも満たないメール。君の顔が浮かぶ。
「あたしには、生きてる価値がないから。」 震える手で打ち終えた返事を送るよ。
送信しましたという文字を確認してから、携帯を握りしめる。
君は今どういう顔で、あたしのメールを見ていますか。
つまらない冗談だと笑っているだろうか。それとも。
なんだか息がつまるような気がして、カーテンを開けた。
ごうごうという車の音が、耳から頭に伝わって響く。

灯りを消した部屋はしんとしていて冷たい。
窓の外に見える町の光がちかちかしている。
赤、青、黄色と派手に輝くネオンなんて見たくない。
ぎゅっと目を閉じると、当たり前だけど真っ暗だ。
怖くなって、薄く目を開ける。
ガラスに映っているのは、不細工なあたしの顔。
ふと、自分が泣いていることにきづいた。
ぱたりぽたりとカーペットに落ちる涙が、黒いしみをつくる。
この部屋も、あたしの顔も、ネオンもすべて消してしまいたい。
携帯が早く鳴ってくれればいいのに。
もうメールを送ってから結構な時間が経っている。
彼は呆れてしまったのかもしれない。
もしメールが返ってこなかったらと考えては、落ち着きなく携帯を触った。

そんなあたしに答えるように、手の中のそれが鳴った。
なんていいタイミングなんだ。
急いで見てみると、また一文だけ書かれた新着メール。
「生きてる価値、あるに決まってるじゃん。」 白の上に置かれた黒の文字。
読んだ途端頬を伝ってぼろぼろ零れたのは、涙だった。
たった一言のメールで、あたしの中にいる醜い自分も許せる気がした。
ぎゅうと携帯を胸に押し付ける。
薄っぺらくて頼りなくて、それでも生きるためにちゃんと動いているこの心臓に
君の言葉を刻むために。

 
 
 
ごめんね、
ごめんね、
ありがとう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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