「わたしの頭をくしゃくしゃにして笑うきみの顔を
忘れることができずにいます。
きみがくれた安っぽいおもちゃの指輪は、
わたしの机の上で、蛍光灯の光を受けてきらきらしています。
本物の婚約指輪は、とうとうくれませんでしたね。
写真は、全て部屋から片付けました。
きみが嫌いになったわけじゃありません。思い出すのが、辛いんです。
夢には必ず、きみが出てきます。
近くにいるのに、少しずつきみはわたしから離れていく。
追いかけても追いかけても、きみの手に触れることができない。
そうして、終わることのない追いかけっこ。そういう夢です。
目を覚ましたときには、いつも、泣きたくなります。
なんでこんなに、忘れられないんでしょうね。
いっそ、きみと出会う前に戻ってしまえばいいのにな。
そうしたらこんなに、きみのことで泣いたりしないのに。
今日はすごくきれいな青空が広がっているので
きっとそちらから、わたしの不細工な泣き顔がよく見えるでしょう。」

かたかたとパソコンに打ち込んでいた文章を、全て消す。
届くことのないきみへの手紙を、わたしは毎日綴る。
この気持ちが、風化して消えてしまうことのないように。
 

 

 (消せるなら消してしまいたい)

























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