がたん、ごとん、規則的に動く電車。
耳にあてたヘッドフォンから流れ出す音楽。
走る電車の窓越しに見る景色を、初めてきれいだと思った。
友達と、すごくばかな話をしながら歩いた道。
好きな人と一緒に帰る道で見た、真っ赤な夕焼け。
目を閉じると、そんなことしか思い出せない。
16年もここにいたなんて、なんだか信じられないや。

だんだん、緑から灰色へと景色が変わっていく。
高いビルに、おしゃれな家が延々と続く。
これがあたしの憧れてた世界なんだ。
可愛い洋服、かっこいい男の人、もしかしたら有名人だって歩いてるかも。
ずっと頭の中に思い描いていた景色が、今、ここにある。
だけどなぜだろう、全然どきどきしない。

目を閉じると、見送りにきてくれた君の顔が浮かぶ。
電車の中で飲めよ、と言って渡してくれた大好きなミルクティーの缶は
あたしの手の中ですっかりぬるくなっている。
ぼうっと缶を見つめていたら、なんだか目が熱くなってきた。
じわりと出てきた涙を止める方法は、今でもよくわからない。
君がここにいたら、泣くな不細工って言って笑ってくれるだろうか。
今、君はここにはいない。
でも、大丈夫。
いつかきっと、この灰色の景色も好きになれるだろう。
君がいたあの緑の景色を好きになれたように。

こぼれおちたしょっぱい涙を、甘くてぬるいミルクティーで流し込んだ。


さよなら、

























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